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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5102号 判決 1996年10月14日

第一事件原告

住友海上火災保険株式会社

第一事件被告(第二事件原告)

富士運輸倉庫有限会社

第一事件被告

近澤敏

第二事件被告

株式会社愛和

ほか一名

主文

第一事件被告らは、各自、第一事件原告に対し、金二四〇万円及びこれに対する平成六年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第一事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

第二事件被告らは、各自、第二事件原告に対し、金四〇万九九一一円及びこれに対する平成六年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一事件原告と第一事件被告らとの間に生じた分は、これを二分し、その一を第一事件被告らの負担とし、その余を第一事件原告の負担とし、第二事件原告と第二事件被告らとの間に生じた分は、これを三分し、その二を第二事件原告の負担とし、その余を第二事件被告らとの負担とする。

この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

被告富士運輸倉庫有限会社及び被告近澤敏は、原告住友海上火災保険株式会社に対し、連帯して、金四九三万五〇〇〇円及びこれに対する平成六年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

被告株式会社愛和及び被告安田浩雄は、原告富士運輸倉庫有限会社に対し、連帯して、金一〇七万九〇六五円及びこれに対する平成六年三月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、先行する大型貨物自動車が車線変更をした際、後続する普通乗用自動車がこれに衝突した事故において、普通乗用自動車の物的損害につき保険金を支払つた保険会社が、大型貨物自動車の運転手及びその使用者である会社に対して求償金を請求し(第一事件)、大型貨物自動車を所有する会社が、普通乗用自動車の運転手に対し、民法七〇九条に基づき、運転手の使用者である会社に対し、民法七一五条に基づき、それぞれ損害の賠償を請求した(第二事件)事案である。

一  争いのない事実(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成六年三月一九日午前六時三七分ごろ、

(二) 場所 香川県坂出市与島町瀬戸中央道(瀬戸大橋)下り二八・一キロポイント付近路上

(三) 先行車 第一事件被告(第二事件原告)富士運輸倉庫有限会社(以下「富士運輸倉庫」という。)所有、第一事件被告近澤敏(以下「近澤」という。)運転の大型貨物自動車(登録番号愛媛一一き五〇六五、以下「富士運輸倉庫」という。)

(四) 後続車 第二事件被告株式会社愛和(以下「愛和」という。)所有、第二事件被告安田浩雄(以下「安田」という。)運転の普通乗用自動車(登録番号大阪三三の一八四七、以下「愛和車」という。)

(五) 事故の態様 瀬戸大橋下り線(二車線・時刻八〇キロメートル制限)において、左側車線を進行していた富士運輸倉庫が車線変更をした際、その後部に愛和車前部が衝突した。

2  第一事件原告住友海上火災保険株式会社(以下「住友海上」という。)と愛和は、愛和車について、自動車損害保険契約を締結しており、損害額を七一〇万円として、車両残存物価額五万円を控除した七〇五万円を、平成六年五月一一日付けで、愛和に支払つた(甲第二、第三、第八の三、第二事件被告安田)。

二  争点

1  事故の態様

(一) 住友海上、愛和及び安田の主張

愛和車が、本件事故現場付近の道路の右側車線を時速約一四〇から一五〇キロメートルで進行中、前方約三〇メートルの左側車線を時速約一一〇キロメートルで進行していた富士運輸倉庫車が、突然車線変更の合図をすると同時に車線変更をして愛和車前方に飛び出たため、安田が急制動をかけたが間に合わず、富士運輸倉庫車の後部に愛和車前部が追突した。

安田は車両通行帯違反走行などはしていない。

(二) 富士運輸倉庫及び近澤の主張

本件事後現場の道路は二車線の自動車専用道路で、車両は車両通行帯の設けられた道路においては道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯、つまり、走行車線を通行しなければならないのに、安田は、本件事故直前に、追越し車線を走行し、車両通行帯違反走行をしていた。

また、安田は、富士運輸倉庫車が前車を追い越すために進路変更することを予想もせず、安全確認を怠り、富士運輸倉庫車及びその前車を重ね抜きにするため、本件追突によつて愛和車が全損になるくらいの速度で、暴走をした。

このように、車両通行帯違反走行をし、何の合図もなく急接近してくる車両をバツクミラーで確認することは無理であり、近澤には後方確認義務の怠りはない。

2  責任

(一) 住友海上、愛和及び安田の主張

(1) 近澤は、右側への車線変更時において、右側車線後方の車両の存在及びその速度を十分に確認し、事前に方向指示器により車線変更の合図をした後、安全を確認して車線を変更すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失があるから、民法七〇九条により、愛和が被つた後記損害を賠償する義務がある。

(2) 近澤は、富士運輸倉庫の従業員であり、本件事故は、近澤が富士運輸倉庫の職務の執行中、近澤の過失により発生したものであるから、富士運輸倉庫は、民法七一五条により、愛和が被つた後記損害を賠償する義務がある。

(二) 富士運輸倉庫及び近澤の主張

(1) 安田は、愛和車を運転中、車両通行帯違反走行をしつつ、暴走した過失があるから、富士運輸倉庫が被つた後記損害を賠償する責任がある。

(2) 安田は、愛和の代表者であり、事故は、安田が愛和の職務を執行中に、その過失により発生したものであるから、愛和は、民法七一五条により、富士運輸倉庫が被つた後記損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 住友海上、愛和及び安田の主張

愛和車は、昭和六三年登録のメルセデスベンツ五六〇SELで、本件事故により全損状態となり、修理見積額が約八〇〇万円もしくはそれを上回る見込みとなつた。

(二) 富士運輸倉庫及び近澤の主張

本件事故により、修理代金五七万五三一七円及び休業損害五〇万三七四八円の合計一〇七万九〇六五円の損害を被つた。

4  過失相殺(住友海上、愛和及び安田らの主張)

本件事故における過失割合は、一般的には、近澤七、安田三であると思料されるところ、安田には制限速度違反の過失があり、近澤にも車線変更の合図を怠り、もしくは車線変更が不適切であつた過失があつて、それぞれ同等の過失割合の修正要素が考えられるので、結局、前記七対三の過失割合が相当である。

第三争点に対する判断

一  事故の態様

1  前記争いのない事実及び証拠(甲第四の二及び三、検甲第一から第八まで、乙第二五の一から一〇まで、第二事件被告安田、第一事件被告近澤、弁論の全趣旨)を総合すると、

本件事故現場は、香川県坂出市与島町瀬戸中央道(瀬戸大橋)下り二八・一キロポイント付近の片側二車線の直線の高速道路上で、本件事故当時、路面は乾燥し、進行方向の見通しは良く、制限速度は時速八〇キロメートルであつたこと、

本件事故の発生した平成六年三月一九日午前六時三七分ごろ、近澤は富士運輸倉庫車を運転し、時速約一一〇キロメートルの速度で右道路の左側車線を南行していたこと、安田は愛和車を運転し、瀬戸大橋の手前辺りから右側車線を南行し、本件事故当時、時速約一四〇から一五〇キロメートルで走行していたこと、

富士運輸倉庫車は本件事故直前まで左側車線を走行していて、車線変更直前に進路変更の表示をして車線を変更したこと、愛和車の左前部と富士運輸倉庫車の右後部とが追越し車線上で衝突したこと、衝突後、車両は約三〇〇メートル走行し、停止したこと、

本件事故後、安田は警察に連絡し、現場に来た警察官は安田及び近澤から事情を聞いたこと、香川県警察本部交通部高速道路交通警察隊所属の三野善弘が本件事故当日に見分し、作成した物件事故報告書の概要欄中には、近澤が左前方に停止している車を見て、右に進路を変えたため、右後方からの安田が追突した旨の記載があること等の事実を認めることができ、右認定に反する安田の供述部分はこれを採用することができない。

2  近澤は、本人尋問において、時速一一〇キロメートル位で走行していたところ、二〇〇メートル位前方を時速一〇〇キロメートル前後で走行している普通乗用自動車を追い越すため、方向指示器を出し、それと同時にバツクミラーで愛和車との距離が二〇〇から三〇〇メートル開いているのを確認し、追越し車線に入り、車線変更をしてから五ないし一〇秒で衝突があつた旨供述し、乙第二五の四から六までの記載中には、近澤が、平成六年三月三〇日、保険の調査担当者との面談において、普通乗用自動車を追い越そうとした際、右の方向指示器を点滅させながら、サイドミラーで後方の車両状況を確認し、安全距離であつたので、時速約一一〇キロメートルで車線変更を始め、一五〇から二〇〇メートル走行して完了し、もう一度、ミラーで後方を確認し、愛和車が自車の後方にいるのを確認し、更に、追越し車線を一〇〇から一五〇メートル位走行した際、後方からの衝撃があり、ハンドルを取られ、時速約一一〇キロメートルで走行していたので、徐々に減速をし、約三〇〇から四〇〇メートル位走つて停止した旨告げた旨の部分がある。

しかし、本件事故直前に車線変更した理由が普通乗用自動車を追い越すためであつたという部分は、本件事故直後に香川県警察本部交通部高速道路交通警察隊所属の三野善弘が作成した物件事故報告書の概要欄中の記載に照らし、採用することができないし、また、近澤がバツクミラーで愛和車との距離が二〇〇から三〇〇メートル開いているのを確認して、追越し車線に入り、車線変更をしてから五ないし一〇秒後に本件事故が発生したという部分についてみれば、車線変更開始時には愛和車との距離が二〇〇から三〇〇メートル開いていたというのであるから、本件事故当時、時速約一四〇キロメートルから一五〇キロメートル(秒速三八・八九メートルから四一・六六七メートル)で走行していた愛和車と富士運輸倉庫車双方の速度差(毎秒八・三四メートルから一一・一一七メートル)に照らせば、近澤の供述を前提にしても車線変更開始から衝突まで一八秒から三〇秒余りかかることになるところ、愛和車が追突の回避をしなかつたのは不自然であるし、近澤の供述を前提にすれば、衝突時には富士運輸倉庫車は追越し車線上を直進したことになるはずであるところ、本件事故においては、愛和車の左前部と富士運輸倉庫車の右後部とが破損しているのであるから愛和車は、衝突直前に、直進の追越し車線上で、走行車線側にではなく、余裕のない右側にハンドルを切ろうとしたことになるがこれも不自然なことといわざるを得ない。

本件事故において、愛和車の左前部と富士運輸倉庫車の右後部とが破損していることは、富士運輸倉庫車が右への車線変更に伴い、進行方向に対し、右向きであつた時に本件事故が発生したことを推認させるものというべきである。

従つて、前記近澤の供述部分及び乙第二五の四から六までの各記載部分はいずれも採用することができない。

3  そうすると、本件事故は、近澤運転の富士運輸倉庫車が方向指示器を出してすぐに車線変更した時に、その後方から制限速度を上回る速度で走行していた愛和車と衝突し、発生したと解するのが相当である。

二  責任

1  富士運輸倉庫及び近澤の責任

前記認定のとおり、近澤は、車線変更時、後方の車両の存在及びその速度を十分に確認して、車線を変更すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失があるから、民法七〇九条により、愛和が被つた後記損害を賠償する義務がある。

証拠(乙第一七の一から三、弁論の全趣旨)によれば、近澤は、富士運輸倉庫の従業員であり、本件事故は、近澤が富士運輸倉庫車で荷物を名古屋から松山に搬送中に発生したこと等を認めることができ、右の事実に前記認定事実を併せ考えれば、本件事故は、近澤が富士運輸倉庫の職務を執行中に、その過失により発生させたものといえるから、富士運輸倉庫は、民法七一五条により、愛和が被つた後記損害を賠償する義務がある。

2  愛和及び安田の責任

前記認定のとおり、安田は、愛和車を運転中、制限速度時速八〇キロメートルのところを大幅に上回る時速約一四〇キロメートルから一五〇キロメートルの速度で走行した過失があるから、民法七〇九条により、富士運輸倉庫が被つた後記損害を賠償する義務がある。

証拠(第二事件被告安田)によれば、安田は、愛和の代表者であること、愛和車を主に仕事の関係で松山に行く時などに利用していたこと、本件事故も、安田が愛和の松山の工場を訪れる途中で発生したこと等を認めることができ、右の事実に前記認定事実を併せ考えれば、本件事故は、安田が愛和の職務を執行中に、その過失により発生させたものということができ、愛和は、民法七一五条により、富士運輸倉庫が被つた後記損害を賠償する義務がある。

三  損害

1  愛和の損害

証拠(甲第五の二、第六、第二事件被告安田)によれば、愛和車はメルセデスベンツ五六〇SELで、本件事故による修理代金は消費税抜きで七七六万二八九〇円と見積もられたこと、平成六年当時、右車種は平均販売価格が四〇〇万円であつたこと、愛和車は全損扱いであつたこと等が認められ、右の事実によれば、愛和車の修理見積額は時価を上回り、経済的に修理が不可能であるから、愛和車は本件事故により全損となつたということができ、愛和が被つた損害は四〇〇万円と認める。

2  富士運輸倉庫の損害

(一) 証拠(乙第六の二、第七の一、第九の一、第一二、第一事件被告・第二事件原告代表者名田光孝)によれば、富士運輸倉庫車は、本件事故により破損し、その修理には合計五七万五三一七円を要することを認めることができる。

(二) 証拠(乙第六の二、第一三の二から五まで、第一四の二から四まで、第一五の二から五まで、第一七の一から三まで、第一八、第一九、第二〇の各一及び二、第二一の一から第二三の五まで、第三三の一、三及び四、第一事件被告・第二事件原告代表者名田光孝)によれば、富士運輸倉庫車の平成五年一二月から平成六年二月までの三か月間稼働売上高は合計五六六万円であること、右期間の人件費は合計一三七万二〇〇〇円、燃料代は合計六八万五九〇〇円、通行料金は合計四九万〇三六九円で、経費は合計二五四万八二六九円であること、

本件事故により破損した富士運輸倉庫車の修理には一四日間を要する見込みである旨の見積もりがされたこと、富士運輸倉庫は、修理の一部を実施し、四日間修理に出したが、うち一日については夜間の仕事ができたこと、富士運輸倉庫には、本件事故当時、予備車がなかつたこと等の事実を認めることができる。

右の事実によれば、富士運輸倉庫車の一日当たりの営業収入は六万二八八八円、一日当たりの経費は二万八三一四円であり、事故と相当因果関係がある休車損害として認められる休車期間は、特段の事情のない限り、当該破損の修理に要する相当の期間に限られるというべきであるところ、修理期間として見積もられた期間のうち一日については休車する必要がなかつたのであるから、一三日間をもつて休車期間として相当と認める。

そうすると、本件事故による富士運輸倉庫車の休車損害は四四万九四六二円となる。

(三) 従つて、富士運輸倉庫の本件事故による損害は(一)及び(二)の合計一〇二万四七七九円となる。

四  過失相殺

前記一及び二認定の事実によれば、安田は、制限速度を時速約六〇から七〇キロメートルも上回る速度で走行していたのであるから、安田の運転も本件事故の原因となつていたことは明らかであるし、近澤は、後方の安全を確認して車線を変更すべき注意義務を怠つた過失がある。

そこで、本件事故の態様、車両の速度等を総合考慮し、近澤と安田の過失を勘案すると、その割合は、近澤六、安田四と解するのが相当である。

五  前記三1及び2の各損害額から前記四の過失割合に基づき過失相殺を行うと、愛和の損害額は二四〇万円に、富士運輸倉庫の損害額は四〇万九九一一円となり、前記第二の一2のとおり、住友海上は、愛和との自動車損害保険契約に基づき、愛和に対し、保険金七〇五万円を支払つたのであるから、愛和の富士運輸倉庫及び近澤に対する損害賠償請求権を取得したものといえる。

六  以上のとおりであつて、住友海上の富士運輸倉庫及び近澤に対する請求は、二四〇万円及びこれに対する本件不法行為の日である平成六年三月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、富士運輸倉庫の愛和及び安田に対する請求は、四〇万九九一一円及びこれに対する本件不法行為の日である平成六年三月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 石原寿記)

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